──「気」を意思決定の変数として扱う
この記事を読むとわかること
- 「気がいい/悪い」を感覚論ではなく構造として捉える視点
- 判断の質が「どこで考えるか」に左右される理由
- 人生判断を歪ませにくくするための場所の設計方法
はじめに|「気がいい」は感覚論ではない
神社は気がいい。マクドナルドは、だいたい気が悪い。こう言うと少しスピってると思われるかもしれないが、ここで扱いたいのは感覚論ではなく構造の話である。人は「何を考えるか」より先に、「どこで考えるか」に強く影響されている。
ここでいう「気がいい場所」とは、癒やされる場所や落ち着く場所のことではない。判断が歪みにくい場所のことだ。この視点で「気」を捉え直すと、場所は人生設計における重要な変数として扱えるようになると考えている。
1. 考える場所の設計|判断の質を守る(ミクロ)
俺にとって、一番「気がいい」と感じる場所のひとつは、朝7:30〜9:00のオフィスだ。場所は丸の内のオフィスビル。皇居に近く、まだ済んだ空気で視界が抜け、緑があり、スケールの大きな空間が常に目に入る。また、朝はまだ人が少ない。ここの時間帯のオフィスには共通した特徴がある。まず静か。紙に字を書くときにボールペンと紙がこすれる音が聞こえるほど。他人の感情が空間にない。場がフラットな雰囲気がある。
9時を過ぎると空間は一気に変わる。人の会話、キーボードをたたく音、会議質の扉の開閉音、漏れ聞こえる声。人の感情と目的が場を満たし始める。その状態で人生の重要な判断をしようと思う人は少ないだろうが、そういう場では静かに自分の気持ちに耳を傾けたりするのが難しいことは容易に想像がつくだろう。
2. 住む場所の設計|判断の初期値を決める
考える場所が判断の「質」を左右するなら、住む場所は判断の初期値を決める。僕は今、武蔵小杉に住んでいる。この街を「気がいい」と感じる理由も、個人の好みではなく構造的だ。
武蔵小杉には、子どもが多い。ファミリー層が中心。所得層が極端に低くも高くもない、という特徴がある。子どもが多い街では、街全体の時間軸が自然と長くなる。今日の快楽より、数年先の安全や継続性を前提に暮らしている人が多い。
街全体に、過度な焦りが少なく、攻撃的な刺激が少なく、生活前提の空気が生まれる。住んでいるだけで、人生を「一発逆転」で考えにくくなる。性格が変わったわけではない。判断のデフォルト設定が変わっただけだ。
3. 統合|場所は「意志力の代替装置」
ここがこの話の核心だが、人は常に冷静でも合理的でもない。意志力は簡単に枯渇する。だから人生設計を「自分の意志で高みにもっていこう」とするのは、だいたいうまくいかない。(多分みんなもなんとなく理解できるだろう。)代わりにやるべきなのは、意志に頼らなくても判断が荒れにくい構造を先に作ることだ。
場所は、そのための強力な装置になる。気がいい場所は判断を補正してくれる。気が悪い場所は判断を歪ませる。これは良し悪しの話ではない。使い分けの問題だ。作業や消費は、気が悪い場所でもできる。でも人生の航路を決める判断だけは、気がいい場所で行う。最初は何の変化も感じないかもしれないけれど、それをずっとやっていると自分の思考がクリアになっていたり、余計なことで悩まなくなっていることに気づくと思う。
4. 実践|自分の判断環境を設計する
やることはシンプルだ。第一に、人生判断用の「定位置」を一つ決める。朝のオフィス、静かなカフェ、公園のベンチ、自宅の特定の場所。ここでは人生のことだけ考える、と決める。
第二に、住む街を「気」で評価してみる。街の時間軸は短いか、長いか。不安や競争が過剰ではないか。自分の判断が荒れやすくならないか。利便性や価格だけでなく、判断への影響という軸で見る。
第三に、変えられない場合の代替策を用意する。朝の時間帯を使う。スマホを遮断する。人が少ない場所を選ぶ。場所は完全には変えなくていい。条件を少しずらすだけでいい。
おわりに|航路を引くために
人生は設計できない。想定外は必ず起こる。でも、航路は引ける。その最初の一歩は、努力でも覚悟でもない。どこで判断するかを決めることだ。行動を変える前に、習慣を作る前に、まずは判断が生まれる場所を設計しよう。それだけで、人生は静かに、前に進み始める。

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